藤田嗣治展を見て

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新緑輝く皇居前の竹橋近くにある東京国立近代美術館で開催されている藤田嗣治生誕120年記念展を見てまいりました。96点も展示された作品はどれも力作ぞろいで大変見応えがあり圧倒されました。

とりわけ第二次世界大戦の数々の戦争画のすさまじいリアルな大作の迫力には思わずうなってしまいました。特に「サイパン島同胞臣節を全うす」とのタイトルで描かれたあの悲劇の現場(追い詰められて、天皇陛下万歳!と叫んで何万人もの人達が断崖絶壁から飛び降り自殺した通称万歳クリフ)に私は数年前にのんきな観光旅行に行っただけに、当時その現場で説明は受けても実際には想像できなかった戦争のむごさ、悲惨さをあらためて視覚で実感できました。阿鼻叫喚の修羅場を実体験した作者ならではの後世の人達への全力を振り絞って完成させた珠玉のメッセージであると思います。この人間界はどこにあっても一歩間違うと天国から地獄の修羅場に転落してしまうことに本当に細心の注意をはらわなければならないとあらためて思い知らされました。

全作品を見終えた私自身の受けた印象ですが、彼の作品の全てに共通していかにも猫を好んで描いた彼らしく、彼の絵には軽快な天真爛漫さや、楽観的な輝くような明るい光、そして華やかさがどの作品にも見受けられない気がしました。(猫派の人には偏見だと叱られるかも知れませんが....。)晩年の作品にピーターラビットのようなカラフルな童話的色調もたくさん出てはきますものの、その絵全体が醸し出す、やりきれないような憂鬱さがどれもただよっているような気がしました。彼は晩年洗礼を受けてレオナルド藤田と名乗っていたようですが真剣に救いを求めた生涯だったのだと思います。彼が生きた時代背景もあったのかも知れません。

備考)冒頭の写真はサイパンの万歳クリフの空高くに建立された十字架と観世音菩薩像の慰霊塔と末尾の写真はその脇の碑文です。画像にカーソルを当ててクリックして行くと文章が読めます。
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この記事へのコメント

2006年05月05日 08:01
実は私も昨日展覧会に行きまして、同様に戦争画にFujitaはこういう絵も描くのか!と思ったクチです。サイパンには行ったことがありませんが、その抜けるような青空と過去の現実のギャップは、やはり見た者ならではのものがあるのではないでしょうか。個人的には、他の戦争画ほど「戦争への思い入れ」が無い絵に見えてしまったのですが。
Sindyまま
2006年05月05日 23:37
藤田嗣治展へのトラックバックをありがとうございました。
私とはまた違った視点でご覧になったのですね。大変興味深く読ませていただきました。
またときどきおじゃまさせていただきます。
美枝子
2006年05月07日 18:04
ホオジロ様

藤田嗣治展、お出かけくださり有難うございます。

絵はそれぞれ好みがありますので無理強いするのは
マナー違反ですが、あの戦争画は是非見て頂きたかった
ので嬉しく存じます。

以前のメールでも書きましたが、私が惹かれたのは彼の
最晩年の頃の絵だったようです。

あのちょっといわく言いがたい不思議な表情の子供の絵、
猫の肢体絵、そして彼自身と奥様をモデルにした教会や
壁画の絵などです。

彼の前半の絵は殆ど知らず、あの個展で全容を知りました。
正直申し上げ、彼の前半生の絵は強烈過ぎて私にはフィット
しないのも多いです。

戦争画は、故国のため、軍に属し描いたのですから
単なる戦争反対の反戦画ではないのでしょうが、私には
ピカソの「ゲルニカ」よりショッキングなものでした。

美枝子
2006年05月07日 18:06
「ゲルニカ」は若い二十代の頃に見ました。
まだ人生のことが分かっていない時で「ああ、これが有名な
ゲルニカか」くらいしか印象に残りませんでした。
でも藤田のあの戦争画にはただただ圧倒されました。

戦争の悲惨さ、生身の人間同士が「殺す」という明確な意志
を持って殺戮しあうシーンを描いた阿鼻叫喚の地獄絵、
あれほど迫力ある、気迫あふれた戦争画を他に私は知りません。
勿論すべての戦争画を見たわけではないので、他の絵の
事はコメントできませんが、あの絵だけで私には充分です。

美枝子
2006年05月07日 18:07
「ゲルニカ」は、実物を見た後も写真集などで何度も見ましたが、
印象に残りません。私ごときが言うのは傲慢極まりないこと
ですが、ピカソは「観念」で描いているように思います。
胸に迫ってくるものが無い。(私の感性の問題でしょうが)

でも藤田のは違う。「叫び」があります。
そして「どうしようもない絶望感」があります。
ホオジロさんの仰るように「全力を振り絞って後世の人に
伝えようとした珠玉のメッセージ」だと思います。
ダイレクトに訴えてきます。彼の執念を感じます。

あの時代の異国で日本人であれほど認められたにかかわらず、
祖国存続の危機に祖国へ戻った彼は、当初は国威宣揚という
意思はあったでしょうが、描いている途中でそういうものを
超えてしまったように感じます。
的外れの個人的な感傷かもしれませんが
美枝子
2006年05月07日 18:09
サイパンの絵、地獄絵の中に赤ん坊がいましたね。
お母さんがどこにいるのか分からない。かごの中にぽつんと
入れられ恐怖に泣き叫んでいる。赤ん坊のサイズがバランス的
にちょっと大き過ぎるように感じたのですが、それはともかく、
ああいったことが実際にあの現場で沢山あったでしょう。
あの赤ちゃん達はどうなったのか、会場で想いを馳せました。

昨年、両陛下がサイパンをご訪問された際「万歳クリフ」を前に
心を込めて拝礼されていた報道がありました。ご訪問で
サイパンの元日本人会会長だったか、「これで60年の胸に
つかえたものがやっとおりた。感謝申し上げます」とコメント
されたのを新聞で読みました。

美枝子
2006年05月07日 18:09
昭和天皇の戦争責任はともかく、現陛下、そして平民出身の
美智子様に責任はありません。
それでもお二人がクリフに向かって深々と頭を下げられた
写真には私でさえ胸が一杯になりました。
あのクリフで「天皇陛下万歳!」と叫んで命を散らした方々の
無念が少しでも柔らいだらと祈らずにはおられませんでした。

藤田嗣治のあの絵の存在を知る前です。
あの絵を先に見ていたら、もっと激しく胸を揺さぶられたと
思います。

私は彼のことを評論できるほど知りませんが、彼が晩年
カトリックになった、と言う事実になぜか安堵する思いです。
あれほどの繊細な神経を持った人(と思う)が、
人生を何らかの祈り無くして生きていくのは困難でしょう。
戦争の悲惨を経験し更に余計に「救われたい」と願わずには
いられなかったのではないでしょうか。
美枝子
2006年05月07日 18:10
ブログの頭に「万歳クリフ」に建立された十字架と観音様の
写真掲載を心より感謝申し上げます。
私はサイパンに行ったことが無いので、現地にあのような
慰霊碑あるとは知りませんでした。

異教の象徴同士が一緒に並び、あの戦いで亡くなったアメリカ、
日本、サイパンの方の御霊を見守っている、と言う事実に
救われます。
形は違っても宗教の根底に差は無いのだと信じます。
ご配慮まことに有難うございました。



俵 萠子(ペンネーム)
2006年05月09日 08:25
じつは、私も藤田展をみに行きたいと思っていました。5月20、21日に俵 萠子美術館祭りをするので、その準備に忙殺されてわすれていました。美枝子さんのコメントを読んで、11日に行こうと思います。私の美術館では、今年も
8月15日に戦争を語り、平和を喜ぶ会を、美術館の森でやります。その夜は私の大好きな音羽倶楽部を借りきってコンサートもやり、みんなで泊まります。あなたと美枝子さんとお二人でいらっしゃいませんか?
2006年05月09日 22:32
はじめまして、TBありがとうございました。
(返すことができません。設定の都合上でしょうか?)

「やりきれないような憂鬱さ」というのは言いえて妙ですね。
元来の気質に加え、祖国に捨てられたという思いとが作風ならびに信仰心へと昇華していったのだと思います。
2006年05月27日 15:29
初めまして!
私も行ってきました、藤田嗣治展!
沢山の人がいらっしゃってビックリしましたけど、
行ってよかった。
「猫」の絵の瞬間的な切り抜きともいえる迫力に
見入ってしまいました!
あの「戦争画」の中の人間の表情を見てしまったら、
藤田氏が戦争に対しての悲惨さを伝えたかったのではないかと
思えて仕方ありません
トラバさせてください
2006年08月27日 14:56
母国の為に描いた戦争記録がにより、日本を離れる事になったなんて皮肉ですよね。
だが、その事により藤田さんの更なる才能を開花できたのだともいえると思います。
生誕120年の今となってやっと認められた。
本人が生きていたらと・・・

藤田嗣治展行って来ました。
やはり、乳白色の色彩には引き込まれました。

ところで、藤田さんの唯一の弟子で竹谷富士雄さんという画家をご存知ですか?

私は竹谷さんの絵を紹介しています。
藤田さんの迫力のある絵とは対照的に優しい雰囲気の絵を描く画家です。

よろしかったらご覧になってください。

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